四畳一間じゃ狭すぎる。

初めておかん&おとんの徒然漫才日記。

5300円の焼肉定食。

無事妊娠4か月目に突入。
世の中の本やインターネットは、 そろそろつわりが落ち着いてきます、 と嘯いているが本当にこれは落ち着いているんだろうか。
落ち着いていると信じたい。でなければあまりに辛すぎる。
バケツを抱えて泣き叫ぶのも、 食事のたびにえづくのももうこりごりだ。
今日はお昼に叙〇 苑で5000円以上もする焼肉ランチをぺろりと食らったのでまあ 大丈夫だろうが。(おいしかった)
んな大層なもん食えてりゃ大丈夫だろうが、 とお怒りの方もいらっしゃるだろうが、 つわりというのは一筋縄じゃいかない代物なのだ。
基本的には、 二日酔いあるいは乗り物酔いを常にしている状態だと思ってほしい 。
おはようからおやすみまで余すことなく乗り物酔いだ。
それから急に吐く。
あのドラマみたいな突然「ウッ、ゲロゲロ」ってやつだ。
あんなもんあるわけないだろ、と思っていたが、あれはある。 マジである。
ケタケタ元気に笑っていた30秒後にはトイレに顔を突っ込んでい た。
ピーク時はこれが毎日続き、 もしかして自分は殺されるんじゃなかろうかとひやひやした。
まあ正直、いっそ殺してくれ、と何度も思ったが。
ここのところは、 胃の不快感と異常なまでの唾液分泌があるのを除けばだいぶマシに はなった。
吐かない日の方が多くなったし、 食べられるもののレパートリーも増えた。
においづわりに関しても、以前ほど過敏ではなくなったし。
つわり絶頂期に比べたら楽になってはいるから、「落ち着いて」 はきているんだろうな。
それでもまだ、油断はできない。
こいつの嫌なところは、 よくなったと思った翌日に嵐のごとき勢いでぶり返してくるところ なのだ。
つまり今日のわたしは焼肉ランチを平らげるほどの調子の良さだが 、明日は起き抜けからトイレとお友達の可能性もあるわけだ。
全く厄介である。終わるならスパッと潔く終わってくれ。
ついでに眠れぬほどの膨満感とのどの奥のつかえた感じ( ヒステリー球とか梅核気とかいうらしい)も連れ帰ってくれ。
こんなつわり真っただ中の妊婦にとって、 何かをおいしく食べられるというのは吐き気に振り回される毎日の なかの微かな希望の光なのだ。
ひとのお金で叙々〇を食べても許してほしい。(おいしかった)


こんな調子なので、 家のこともろくにできないまま職場と家を往復する日々だが、 そんなふがいないわたしにも紺氏は優しい。
文句も言わずに食事の支度をしたり、 率先して部屋の掃除をしてくれたりするスパダリっぷりだ。
よそ様に彼のことを尋ねられると、ちょこちょこ自慢している。
ただの嫌味なのろけにしないためのコツは、 散々やらかしてくれた過去のクソ歴史まできっちり語ってやること だ。
こうすることで人々は若干憐みのまなざしを向けるが、 印象はプラマイゼロむしろちょっとマイナスくらいのいい塩梅にな る。
謙虚な日本人、って感じでしょ。 本当のいいとこなんていうのはわたしが知って知っておけばそれで 十分なのだ。
そんなスーパーダーリン(研修中)の紺氏は最近、 マタニティブルーに悩むわたしの対処法を見つけ始めたらしい。
マタニティーブルーというのもつわりに次いでなかなか厄介な刺客 である。
もうとにかく、 何でもない瞬間に突然悲しみが襲い掛かってくるのだ。
ボロボロ泣く。 それはもうおもちゃを取り上げられた子どもみたいに泣く。 訳もなく。
これは気分が落ち込んで何にも手につかなくなるし、 何よりひどく疲れる。
当初は紺氏も突然泣き出すわたしにひどく困惑していたが、 賢い彼は適応能力も高い。
ある日またたまらなく悲しくなったわたしの、 泣き出すときにキュッと寄る眉間を指でこすり始めた。
何をするかと思えば、泣こうとしている人間の、 眉間をゴシゴシだ。眉間を。ゴシゴシ。
こいつはいったい何をしているんだと呆れたのもつかの間、 面白いことにこれが効果覿面なのだ。
不思議と、眉間をこすられていると涙が止まる。
(ちなみに、ゴシゴシをやめるとまた悲しくなってくる。)
紺氏は泣きそうなわたしの眉間をこすってはゲラゲラ笑っていた。
なんでも、 眉頭を上に引き上げた時の顔が情けなくて面白いんだそうだ。


ほんとうに、ウソみたいに優しいヤツである。
ある時わたしは思い立って、「 なんでそんなに優しくしてくれるの」と尋ねてみた。
すると紺氏は「一緒にいられることに感謝しているからかな」 と何でもないように言った。
100点である。 照れくさくなったわたしはドライヤーをかけているのをいいことに 髪の毛で顔を隠した。
ただ100点ではあるがひとつだけ、どうしても言わせてほしい。
悲しくて泣いている人間の顔で、遊ぶな。